公的介護保険料が上昇?!近づく2025年問題
2021年4月9日の日経新聞にも載りましたが、65歳以上の高齢者が支払う公的介護保険料が全国的に見直されました。今はオリンピックが開催できるのか、開催すべきかといった議論が世間を騒がせていますが、同時に「2025年問題」も差し迫っています。社会の変化に我々はどう対処していくべきなのか、一緒に考えていきましょう。
【コラムニスト】
ファイナンシャルプランナー 三井明子
●2025年問題って何?
2025年には、いわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、本当の意味での「超・高齢化社会」が訪れることで様々な影響が及ぶとされており、それを称して2025年問題と言っています。
まず、懸念されるのは
・医療費や介護費用などの社会保障給付費の増大
・一人暮らしの高齢者、または高齢夫婦のみの世帯の増加
・首都圏をはじめとする都市部での高齢者の増加
・認知症高齢者の急速な増加
などに伴って発生する問題でしょう。
自立して生活することが難しくなった高齢者を社会でどう支えていくか、目前に差し迫った問題に対し、有効な対策が取れているとはいい難い現状があります。
皆さんの中にも、ご自分の親御さんと離れて暮らしているという方もいらっしゃいますねよね。もし、親御さんが介護が必要になり、一人あるいは高齢のご夫婦だけでは暮らせなくなった場合に、どう対処するかご家族できちんと話し合えていますでしょうか?
実際に親御さんが認知症になってしまってからでは、資産管理や加入している保険の確認、本人の希望なども聞けなくなってしまいますし、精神的にも不安定になることが多く、冷静に話を聞いてもらえないということもしばしばです。
親御さんはお子さんには心配をかけまいと、身体の調子が悪いことを隠したり、困っていてもなかなか頼りづらいものです。コロナ禍で、この1~2年里帰りを自粛されているという方も多いと思いますが、お電話やオンライン面談などで、様子がおかしくないかなど気を配っていただければ幸いです。
●意外と知られていない公的介護保険制度
公的介護保険制度について、内容をご存じない方も多いため、念のため押さえておきたいポイントをシンプルにお伝えすると以下の通りです。
<公的介護保険制度のポイント>※2021年5月時点
・年金や給付金ではなく「介護サービス」を提供するしくみ。
・利用者は介護サービス費用の1割(所得により2割または3割)を負担する。
・要介護の認定区分により、公的介護保険の対象となる上限が決まっており、超えた分は全額自己負担。
・介護保険料の支払義務は40歳から一生涯。
・65歳以上の方の介護保険料は市町村によって異なる。
なお、保険料の納め方が、ご年齢によって下記の通り変わります。
<65歳以上の方(第1号被保険者)>
・公的年金を年間18万円以上受給している方は年金から天引きされます。
(それ以外の方は納付書等で市区町村に直接払います。)
<40歳から64歳の場合(第2号被保険者)>
・公的医療保険の保険料に上乗せされて払います。
●市区町村でどのくらい差がある?
ご両親など、年金を受け取っている方が身近にいらっしゃる場合は、2か月に1度発行されている振込通知書に、毎回2か月分の介護保険料が記載されているので、見せてもらうとよいでしょう。
65歳以上の方が払う介護保険料は、介護保険を運営する市町村が地域の状況を踏まえて決めており、3年に一度見直されています。そして、今年2021年の4月は、その見直しタイミングだったのです。今年、どのように見直されたのかを見ていきましょう。
<65歳以上の方が支払う介護保険料の基準額(2021~23年度)>
東京都によると、都内では前期より平均2.9%上昇し、5,911円から6,080円になりました。大阪府も平均2.9%増で、6,636円から6,826円に上昇。
なお、日本で基準額が最も高額なのは、東京都青ヶ島村の9,800円。最も低いのは、北海道音威子府村(おといねっぷむら)と群馬県草津町の3,300円でした。都道府県別の平均で、最も高いのは大阪府と沖縄県で6,826円。もっとも低いのは千葉県で5,385円でした。そして、今回引き上げ幅が最も大きかったのは埼玉県の8.4%です。
全国平均では、6,014円となり、初めて6千円を超えました(前期比+145円・2.5%上昇)。介護保険制度が始まった2000年度は全国平均で約2,900円だったことを考えると、20年で約2倍になったということですね。そして2025年を過ぎると、基準額の平均は7,200円まで上昇するのではないかとの推計もあります。
基準額が上がる大きな要因としては
・介護サービスを利用する高齢者の増加
・介護従事者の待遇改善を図るための介護報酬の引き上げ
などがあげられています。
実際にサービスを利用しても1割の自己負担額や介護保険料を払えず、市町村から資産を差し押さえられるケースなどもあり、制度自体を見直さなければ維持ができなくなる可能性もあります。また、保険料をこれ以上引き上げることが困難であれば、提供するサービスを限定したり、対象となるサービスの上限額を低くするといった変更も可能性として考えておかないといけません。
●私たちは何を考え、どう対応すべきか?
現役世代にとっては、安定した収入もあり、介護保険料は色々なものとまとめて天引きされているので、それほど重く感じないかもしれません。しかし、これが年金生活になると、結構な負担となり重くのしかかってくる場合があります。
例えば、2025年に万博が開催される予定の大阪府大阪市の介護保険料の基準額は1ヶ月あたり8,094円になりました。ご夫婦2人で毎月16,188円、年間で194,256円と約20万円にもなります。介護サービスを受けても受けなくてもこの負担は必要です。
さらに、介護を受けるようになった場合、一番重い「要介護5」と認定されると、1ヶ月360,650円までの介護サービスを1割の自己負担で受けられますが、そのためには毎月36,065円を払わないといけません。この1割の自己負担の支払が苦しく、受けたいサービスが受けられないという高齢者の方も多いのです。
介護状態になった時に備え、最低限、介護保険料の支払と1割の自己負担分を払えるように、生活費以外に月5万円程度の余剰資金を含んでセカンドライフプラン(老後の資金計画)を立てておくか、民間の保険会社の介護保険などに加入して介護資金を準備するなどの備えが必要です。また、現実的に「老々介護」が可能なのか、頼れる家族がいるか、いない場合にはいつのタイミングでどんな施設に入ればよいのかなど、具体的に考えておくことが大切です。
誰だって介護のことを考えるのは、あまり気持ちの良いものではないと思います。しかし、多くの方がいつか直面しなければいけない問題ですので、早めに対策を打つことで、選択肢が広がり、無理をせずコツコツ取り組むことができます。
また、お金の問題を解決するだけでなく、身体に気を付けて元気に暮らせる健康寿命を延ばすことや、家族との関係、友人関係など、いざという時に心身ともに支えてくれる人たちを増やしておけるとよいですね。
今後、過疎化の進む地方では自治体が上下水道、電気設備、役所などのインフラや介護サービスの提供範囲を広く維持することが難しくなるという懸念もあります。災害対策もしづらいので、ある程度基盤が整った場所にみんなで寄り集まって支え合うという次世代のスマートシティ(=全体最適化が図れる持続可能な都市、街)などの構想にも具体的に取り組んでいかないといけないかもしれません。
我々は、戦前から戦時中にかけての「多産多死」の時代から、高度経済成長期の「多産少死」の人口増加時代を越え、成熟社会の「少産少死」の時代を迎えています。時代の過渡期を迎えた我々は、この大きな山を技術革新等をもって乗り越えないといけません。
個人の負担は一時的に増えますが、人口の変化は何年も前から分かっていて、ずっと警鐘をならされていたことです。現実を見据えて、なるべく早く対応する。それが今の私たちにできる唯一の方法です。具体的な計画については、ぜひ当協会の認定アドバイザーにもご相談ください。
さて、今回はここまでとなりますが、いかがでしたでしょうか?
後回しにせず、早め早めに対策を取っていただければ幸いです。