住宅ローンは変動金利と固定金利、どちらがお得?
住まいを購入されるほとんどの方は、長期の住宅ローンを組まれます。
よくいただく質問に「変動金利と固定金利どちらが良いのか?」というお話があります。
結論から申し上げますと、正解は無いのですが、今回のコラムでは前編と後編に分けてこのテーマを掘り下げてみたいと思います。
今回は変動金利、固定金利それぞれのおおまかな特徴を解説させていただき、後編では住宅ローンを組まれる方の返済プランによって、お薦めのパターンをいくつかご紹介します。
【コラムニスト】
不動産コンサルタント 黒田健一
●変動金利と固定金利の特徴
まず、変動金利・固定金利それぞれのおおまかな特徴です。
【変動金利】
・定期的に金利の見直しが行われて返済金利が変わる。
・固定金利への切り替えは基本的にいつでも可能。
・返済金利は借入れした時点の金利で支払スタート。
・金利見直しのタイミングは通常は毎年4月と10月(半年に1回)。
・金利が変動しても、そこから5年間は支払額が変わらない。
・金利変更後5年が経過したら返済額が変わりますが、金利上昇している場合の支払額増加は、現行の支払額の1.25倍までが上限。
2009年~現在まで約10年以上、変動金利は実際には上下していません。(下図のオレンジのライン)
【固定金利】
・固定期間中は金利が変わらないので、支払額も一定になるが、変動金利よりも割高な金利設定となっている。
・固定期間中は変動金利などへの切り替えはできない。
・返済金利は借入れした時点の金利で支払スタート。もちろん固定期間の金利は変わらない。
・固定期間終了後は変動金利にするか、再度その時点でなんらかの固定金利を選択し直す。
※新生銀行やソニー銀行などは独自の設定となっており、その他一部上記と異なる金融機関もありますので、詳細は各金融機関ににご確認頂ければと思います
変動金利と固定金利の特性を電車に例えると、変動金利は運賃が途中で変わるかもしれない各駅停車の切符です。
固定金利は特急券みたいなもので、運賃がちょっと高いけれど行先までは運賃が変わらないという感じでしょうか。
変動金利は各駅停車なので、いつでも道中の駅で下車して特急券を購入→特急に乗車することが出来ますが、固定金利は一度乗車したら行先までは下車する事ができないという感じです。
●実際の金利差はどのくらいなの?
気になる変動・固定の金利の差ですが、2021年2月現在の例をみてみましょう。
例えば3,000万円を返済期間35年で借入れした場合、それぞれの月々の支払いは以下のようになります。
いかがでしょうか?10年固定金利の場合で、1ヵ月約8,500円(年間で約10万円)、35年固定金利の場合で1ヶ月12,703円(年間で約15万円)の差額がありますが、これを「損」と取るか「安心料」と取るかは、皆さん個々人の価値観で違ってくると思います。
金利の動向は、これまでの推移を見返すことで一定の予測ができてきましたが、昨今行われているこれまでに類を見ない世界的な金融緩和により、どんなプロでも今後どのように推移していくのか予測する事はできません。
住宅ローンを支払っていくのは皆さんご自身ですので、それぞれの特性をよく理解して「低金利のメリット享受」と「金利上昇へのリスクヘッジ」どちらを優先するか、皆さんそれぞれの考え方によって選択しなければなりません。
●元金(残債)が多いと金利変動の影響は大きい
この判断にあたり、ちょっと横道に逸れますが「元利均等」と「元金均等」という二通りの返済方法についても少し理解しておく必要があります。(下図参照)
ご覧頂いた通り、同じ額を借り入れても、利息と元本の構成にだいぶ違いがあるのがわかります。
ちなみに、住宅ローンを借り入れる際、金融機関に何もリクエストしなければ「元利均等」となりますので大半の方は元利均等で借入れをされています。これは、金融機関の利益が少ないのであえて元金均等をお勧めしないということもありますし、元金均等で返済すると当初の月々の支払額が重たくなってしまうので説明を受けても敢えて選択しない方も多いからです。
参考までに、元利均等と元金均等で総支払額にどれくらいの差が出るのか、上記3,000万円借り入れ、返済期間35年 金利0.475%で計算してみると
元利均等 → 32,568,480円
元金均等 → 32,499,480円
総返済額の差は35年間で69,000円でした。
金利が低いとあまり差が出ませんが、固定金利1.39%で計算すると
元利均等 → 37,903,740円
元金均等 → 37,314,670円
総返済額の差は35年間で589,070円となります。
※「元金均等」を選択できない金融機関もあります。
ご説明した通り、住宅ローンで支払う利息は、その時点での借り入れ元金に対して計算されているので、返済当初はまだ減っていない借入れ元金に対しての利息を払いますが、返済期間が進むにつれて減った借入れ元金に対しての利息を払うというようになっていきます。(下図参照)
つまり返済当初は金利が安い方がメリットが大きく、返済期間がある程度進んだ頃には借入れ元金が減っているので、その時点で金利が上昇しても返済当初よりもダメージが少ないということになります。たとえば、繰り上げ返済をして、返済期間を減らす前提で住宅ローンを借入れされる方は、特にそのダメージを受けにくいという事になります。
●金利上昇のリスクをどの範囲まで考えるか?
現在はマイナス金利ですので、これ以上金利が下がるという事はなかなか考えにくいですが、だからこそ金利の上昇は心配ですよね。
下図のイメージ図をみていただくと分かりやすいと思いますが、例えば、数年後から金利が上昇し続けると仮定した場合でも、今の固定金利の金利をどのくらいの期間で上回っていくのか?によって、トータルの損得は変わってきます。
全期間固定金利を選んだ場合、かなりのペースで変動金利が上がらないと得をしたことにはなりません。ただ、35年という長期の借り入れの場合、先々のことは分からないというのも事実です。損得よりも、ずっと変わらない「安心感」を求める方には、固定金利が良いと思います。
また、現金での預金が十分にあり、金利が上昇する局面では繰り上げ返済を行って元金(残債)を減らせるという方は、先ほど説明した通り、金利上昇の影響を抑えられますので、返済当初にできるだけ低い金利で借りて元金を減らしていくというのが賢い選択と言えるのかもしれません。
ただ、こういった事を前提として考えても、変動か?固定か?なかなか決断が難しい方もいらっしゃるかもしれません。
そんな方に、次回の後編では白か黒かの二択ではなく、「グレー」を選択する方法や、皆さんが考えられている返済プランにあてはめてお薦めの組み方等を解説していきます。
今回は以上となりますが、いかがでしたでしょうか?
具体的にご自身がどのくらいの金利上昇まで耐えられるのか、色々なパターンでシミュレーションしたい場合は、ファイナンシャルプランナーの方にご相談されてみるのも良いと思います。次回のコラムもぜひご覧ください。